【結婚式の延期とキャンセル問題~現場では今何が起こっているか】
昨年10月の大型台風の際にもクローズアップされた結婚式のキャンセル料金問題。
否応なしに今回のコロナウイルス流行でもその話は各地で話題に挙げられています。
前回(昨年10月 記事はこちら参照)、弊社は「結婚式のキャンセル料金でアップアップになっちゃった新郎新婦さんへ対する救済措置」を掲げ、全面的に新郎新婦さんの味方を致しました。
しかし台風や震災と今回のウイルス騒動では大きく状況が異なります。
なぜなら今回に限っていえば結婚式場や結婚式に関わる業界全ての被害も甚大。
勿論弊社も例外ではなく、この4-6月の三か月は全ての御案件が延期となり売上ゼロが確定しています。
そんな状況下なので少し業界内部について説明を。
テーマは大きく二つ。
①なぜ結婚式のキャンセル料金は高額になりがちなのか
②今現在結婚式場&ウエディング業界には何が起こっているのか
を詳しく説明したいと思います。
これらが周知さていない原因には、
ウエディング業界の金銭的な内部事情。
結婚式を始めとする冠婚葬祭にかかる費用(=カスタマーが支払う費用)の内訳が今まで不透明過ぎたこと。
に大きな原因があると思っています。
なので今回は全て曝け出す。
まずは事前知識として業界の構造から!
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【事前知識①結婚式を成約すると現場はすぐに動き出す】
ここでは例としてお二人が「4月1日 13:00-18:00」という日程で結婚式を式場へ予約したとします。
まだ具体的な打ち合わせには入っていませんが、式場(プランナー,責任者)は以下の手配を開始します。
①ハコ(式場,会場)の確保
→他のご予約の受け入れ停止
②ヒト(スタッフ)の確保
→サービススタッフ、キッチンスタッフ、音響スタッフ、カメラマン、司会者、メイク、着付け、アテンド等その他各種スタッフのスケジュール確保
③モノの確保
→衣装、引き出物、引菓子、食材や飲料、各種アイテム ※具体的な内容は打ち合わせ後
結婚式の商品は大きく分けて「ハコ」「ヒト」「モノ」の三つ。
日時が決まった段階ですぐさまプランナーは「ハコ」と「ヒト」を押えます。
この時点でスタッフのスケジュールはお二人の為に確保されますから、召集されるスタッフは他の仕事を全てシャットアウトします。
押さえていたスケジュールがバラシ(キャンセル)になれば当然彼らの食い扶持は無くなります。
つまりノーギャラ。無収入です。
【事前知識②一般的な結婚式(式場)のキャッシュフロー】
仮に!
1件の結婚式の売上(=新郎新婦の支払い)を100万円とします。
あくまでも売上であり利益ではありません。お客様が会場に支払う総額です。
(消費税は?うん..。込みでいいや込みで。あくまでもモデルケースですのでその辺は柔軟に読んでおくれ)
この中には
・飲食代
・各種手配物
・各種スタッフ
全てが含まれています。
この100万円の中から会場は”施行にかかった経費/1件あたり”として、
【モノ】<20万円>
飲食(料理、飲料)原材料費
【モノ】<20万円>
飲食以外の手配物(衣装、ギフト、お花、引き出物等)仕入れの支払い
【ヒト】<25万円>
施行スタッフ(サービス、キッチン、カメラマン、美容、司会者等)の人件費
を支払います。
残った35万円が会場の粗利益です。
しかし上記で支払ったのはあくまでも施行経費。
この35万円からさらに一か月ごとのランニングコストを支払わなければなりません。
式場のランニングコストとしては、
・地代家賃
・光熱費
・広告費
・社員(プランナーや役職者)人件費
などが挙げられます。
1件の結婚式が100万円。
月に土日が計8回あるとするとその式場の月商は800万円です。
800万円のうち、
<家賃光熱費 5%>
<広告費 5%>
<人件費 20%>
としても、約240万円が月間のランニングコストです。
上記をまとめると、月間の収支内訳は
A:月間売上:800万円
B:施行経費:65万円×8=520万円
C:ランニングコスト:240万円
A-B-Cで約40万円(総売上の5%)が「式場一か月間の純利益」となります。
まずはこれを一回頭に入れておいてください。
注:ここまでで数字についてこれない人!もう無理!難しいこと勘弁して!って人は暫しカメラマン藤木くんの笑顔で癒されてください。
落ち着きましたか?では続きに参りましょう。
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【それではキャンセル料金を求めない式場=良い式場なのか?】
今回の主題はココ。
果たして今取り沙汰されているように、
キャンセル料金を求める式場=悪
求めない式場=善
なのでしょうか?
今回のようなウイルス騒動。或いは自然災害などは「自己都合によるキャンセル」には当てはまりません。
勿論会場側の都合でもありません。
この時点で「誰の責任によるキャンセルか」という責任論は不毛なので一旦横に置いたうえで話を進めます。
こんな未曽有の事態。予測してろっていう方が無理です。今生きている人類全員が未経験のことです。
ここに「キャンセル料ゼロの式場“ゼロエン”」と、「一部キャンセル料が必要な式場“チョットクレ”」
の二件があったとします。
2組の新郎新婦はそれぞれの式場で「4月1日の結婚式を9月1日に延期」しました。
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【ゼロエンでは何が起きているか】
まず「ゼロエン」の対応は、
“今回のウイルス騒動での延期(キャンセル)料は一切頂きません”というものでした。
新郎新婦はハッピーですね。ひと安心です。
しかしそのゼロエン。
当然ながら今月の売上は800万円→0円です。
その裏側では、
<飲食物原材料>全てキャンセル
→食材業者や生産者さんは大量の在庫(フードロス)を抱えてパンクします。
<各種手配物>全てキャンセル
→衣装、アイテム関係の業者さんは売上ゼロに。引菓子等賞味期限のあるものはフードロスに。
<施行スタッフ>サービス、キッチン、カメラマン、司会者への報酬ゼロ
→1件の施行で得られるギャランティ(1万円~5万円)を当てにしていたスタッフは当然無収入に
<ランニングコスト>
家賃、光熱費、広告費は今月も否応なしに請求されます
<社員人件費>
売上ゼロにより社員は全員休業。給与は休業補償として6割支払われます。
あくまでも全て仮定の話ですが、「キャンセル料金ゼロ×3か月間」を貫いた「ゼロエン」には多大な負担がかかりました。
勿論自社だけではなく関連する「食材」「衣装」「ギフト」「アイテム」の各社も連鎖して売り上げはゼロになります。
施行に入る予定だった多くのスタッフも無収入になり、
この状況が長引けば倒産や連鎖倒産、失業者を生み出すことになりかねません。
実はウエディングアイテムや衣装の会社には中小零細企業が多く、また結婚式に関わる専門職スタッフ(カメラマン、司会者、美容)はそのほとんどがフリーランスです。
大企業勤務の方や公務員とは状況が異なり簡単に生活基盤を失います。
そして「ゼロエン」自身も“売上ゼロ×3か月&ランニングコストの支払い”により毎月240万円の赤字を垂れ流し続けます。数か月続けば倒産の可能性も大いにあります。
延期したはずの「9月1日」に式場が健在である保証などどこにも無いのです。
そこに関わっていた全員が一斉に致死量の血を流す。
これが「キャンセル料を一切頂きません」という一見カスタマー全面重視の会社の裏側です。
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【その頃チョットクレでは・・・】
それでは一方「チョットクレ」では、
”理由の如何を問わず“一律30%のキャンセル料金を頂く”
という方針に決めました。
代わりにプレミアムとして延期開催日には30万円分の特典を付けることにしています。
一見すると無慈悲。
新郎新婦さんは自己都合でも無いのに30%(=30万円)のキャンセル料支払いを求められたので不満が残ります。
「チョットクレ」ではキャンセル料金でお客様から頂いた30万円を関係各社へ分配(支払い)することにしました。
食材生産者や手配物の業者さんへは「一律30%のキャンセル料」を。
施行に関わる予定だったスタッフへは「一律10,000円の休業補償」を。
残った金額はランニングコストに充てて何とか生き永らえようとしています。
「売上」という言い方には語弊を感じますが、“チョットクレ”ではキャンセル料金のおかげで何とか月間240万円の収入を得ることが可能になりました。
勿論これは利益になどならずあくまでも自社、関連業者、そしてスタッフを延命させるための最低金額にしかなりません。
当然毎月赤字は加算されていきます。
それでも「ゼロエン」に比べれば一か月で240万円、三か月で720万円の確保が出来ます。
毎月の赤字は80万円に抑えられました。
実に「ゼロエン」の1/3です。ゼロエンが3ヶ月で倒産するならば、「チョットクレ」は9ヶ月延命する事ができます。
延期予定の半年後までならなんとか持ちこたえられそうですし、倒産や失業者も出さなくて済みそうです。
決して血が流れていないわけではありませんが、ゼロエンほどの致命傷には至らず。関係各社及びスタッフにも多少の支えが出来ました。
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【優劣や善悪の判断は状況によって評価される】
実際にギフトアイテムの会社では今回の結婚式キャンセル、延期により大量600万個の引菓子の在庫を抱えてパンク寸前。賞味期限のある商品なので使い回すわけにもいかず四苦八苦されています。
(弊社もお世話になっているPIARYさんのフードロスに御協力を!)
ちなみに弊社のお客様全てに対しては今回“ゼロエン“と同じく「延期の場合はキャンセル料金無し」という対応をさせて頂きました。
勿論アイテムの業者さんには謝罪をしたうえで全てキャンセル。
施行に入って頂く予定だったスタッフへもお断りをしました。
(幸い弊社の場合はこの騒動初期よりギリギリ一か月前迄はヒト、モノの手配をストップするように指示していましたのでご迷惑は最小ですみましたが。それでも各方面へ謝り倒しました。)
弊社のようなプロデュース会社のランニングコストは
・オフィス家賃&光熱費
・スタッフ給与(私とプランナー1名の2名分)
・HP等諸経費
程度ですので売上ゼロが確定したこの三か月間は耐え忍ぶのみです。が、それでも半年続けば倒産も十分あり得ます。
とはいえ大きな会場を抱え、大勢のスタッフを支える式場さんに比べたら微々たるものであると感じています。
大量に在庫を抱えるアイテム業者さんも状況はでしょう。
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【延期とキャンセルは違う?同じ?】
そしてもう一つ。
有権者の皆さんにご理解頂きたいのが、「延期の場合はキャンセル料金ゼロ」という措置についてです。
本来ならば4月の月間売上は800万円。
9月も同じく800万円の売上見込みがあったとします。
4月の案件が全て9月に延期されたならば、9月は「延期案件」のみで完売となり「新規案件」は受け入れ不可となります。
つまり本来なら「800万円×2=1,600万円」だったはずの売り上げが9月の800万円だけになるので売り上げは半減。
失った一か月分を取り戻すにはおそらく数年かかることでしょう。
この場合でも、1組のカスタマー(お客様,新郎新婦)が支払う金額は100万円のまま。
しかし、会場にとっては200万円の売上が100万円に半減するのと同じ。
キャンセルだけでなく延期の場合でも、決して「チャラ」にはならないのです。
これが「モノを売る/モノを買う」という一般的な商品販売の図式と、「コトを売る/コトを買う」という結婚式ビジネスの大きな違い。
一度失った機会を取り戻すには多くの年月が必要になるのです。
大量生産して売る、っちゅーわけにはいかんのですね。
「キャンセルじゃなくて延期だから良いじゃないか。どうせ100万円は払うんだ!」
と思う方もいらっしゃるでしょう。おそらく多くの新郎新婦さんはこのお考えを持っていると思います。
しかしそれはあくまでもカスタマー側の理論。
売り手側としてはチャンスロス(機会損失)により売り上げが1/2に半減するということをどうか分かって下さい。
「9月1日を二個に分割して、或いは会場を倍増させて二個売る」ということは出来ないのです。
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【おわりに】
さて。ここまでつらつらと「結婚式業界で今起きていること」。
そして僕なりに考えるキャンセル、延期に於けるコストの問題。
そしてその先に起こる様々な影響を記してきました。
現時点で「ゼロエン」「チョットクレ」どちらの判断が正しいのか。
それも経営者として?ビジネスとして?顧客に対して?世の中に対して?
正直僕にも分かりません。当然弊社のとった方法もしかりです。
その答えが出るのは大分先になるかもしれません。
この事態が長期化し「ゼロエン」を皮切りに大量の連鎖倒産や失業者が発生し、業界が大混乱すればゼロエンのとった施策は愚策であったと非難されるでしょう。
一方で問題が軽微であればあるほど「チョイクレ」の施策は“血も涙もない守銭奴”“紋切り型で愛の無い仕事”であるかのように非難されます。
我々としての基本方針は「新郎新婦に徹底的に寄り添うこと」だけ。その時々の状況に応じて判断せざるを得ません。
そんな状況下ですので、現在のように「キャンセル料を不要とする式場=善」とされ、キャンセル料金を求める式場が一方的に責められている状況はどうにも腑に落ちず。
またどちらか一方の方針を全面的に支持することも出来ません。
今回の記事は「どうするべきか」弊社や僕の理念をお伝えしたかったわけではありません。
勿論業界全体が「どうあるべきか」という問題意識をもって臨まねばなりませんが、その正解を記したわけでもありません。
あくまでも今起こっている事実。
そしてこれからキャンセル料金と直面する(そうならない方がいいに決まってるけど)多くの新郎新婦さんに知っておいて頂きたい「ウエディング業界に今起きていること」なのです。
いずれにせよ現在は戦時下。
今までのルール、今までの対応。そして今までの価値観のままでは業界全体も新郎新婦も、全ての人が不幸になってしまう恐れがある。
過度なカスタマー目線だけで乗り切るのはもはや限界。
これからの社会や業界全体を見通したうえでの対応が迫られており、その意識と対応が問われていると痛感しています。
少しでも皆さんに業界の構造を知って頂ければ。
そしてこれからも「すべての人々に笑顔の結婚式を!」
この理念は弊社だけでなく、ウエディングに携わるすべての人々が持っている信念であるということだけはご理解いただきたいのです。
万策尽きたと思うな。
自ら断崖絶壁の淵にたて。
その時はじめて新たなる風は必ず吹く。
(松下幸之助)